短編小説 シリーズ短編 私は、どこで間違えた?

私は、どこで間違えた?

178 行 2026/06/21 09:39
「また・・・。ですか?」 『えぇ』  電話の相手は、私がデビューした時から担当してくれている|編集者《浅葱さん》だ。  偶然だと思っていた。しかし、今回で”4回”連続だ。4回連続となると、偶然だとは思えない。 「警察は?」 『・・・。まだ、伝えていません。信じてもらえないでしょう?それに・・・』 「私は、編集の人たち・・・。仲間内だけですよね?」 『はい。一応、読者も含まれますが・・・』 「読者もですか?」 『えぇ書籍ではなく、Web版の公開後に事件が起きていますからね』 「そうですね。でも・・・」 『はい。不気味ですね。今回の作品は、仲間内にだけわかるようにしていました。発売して1週間で・・・』  編集が言いたいことは理解できる。  私の作品は、犯罪を美化するものではない。殺人以外の犯罪を小説仕立てで書いている。編集者にも相談したのだが、私の昔の仲間に、それらを得意としていた者がいる。違うな。正確には、仲間の一人に”居た”。私は、世間的な言い方を借りれば、”ムショ帰り”となる。これも違う。私は、不起訴になったので、ムショには入っていない。仲間の数名がムショに入った。  今回は、スキミングの話だ。  準備は必要だが、それほど難しいものではない。それに、編集が知っていることを考えれば、犯罪が露呈していることになる。  犯罪の方法は書いているが、大事な部分はボカシてある。 「もう一度、読者に注意喚起をしますか?」 『うーん。無駄だと思うのですが・・・』 「なにか、歯切れが悪いですね」 『いや、注意喚起をすると、先生の作品を読んだ読者が、犯罪をしているように思われてしまう。編集としても、読者がそこまで愚かだとは思いませんが・・・』 「そうですね。まだ、世間的には結び付けられていないのですよね?」 『はい。編集部にも苦情のような投書はありません。SNSも巡回していますが、読者が楽しんでいる状況はわかりますが、実際に犯罪行為に結びつけている人は見つかっていません』 「わかりました。私は、SNSや世間の情報に・・・」 『いえ、いえ、それは、お声を掛けさせていただいた時からのお約束ですから、私たちを仲間だと思って、信じてください』 「はい。信じておりますし、編集部の人や、浅葱さんを信じております」 『はい。それで、次回作ですが・・・』  次回作の打ち合わせは先日オンライン会議で済ませている。  私や昔の仲間たちのネタは、すでに無くなっている。直近の4つも、正直に言えば、仲間たちが行ってきた犯罪に比べると、しょぼい犯罪だと思える。  そこで、次回作は、私の仲間がムショで聞いてきた、犯罪を題材に長編を書くことになっている。  編集は、あまり気にしていないが、次の話は”殺人”が絡んでくる。  真似しているのだとしたら・・・。  私が連載しているのは雑誌で、4千文字で一話となり、一つの犯罪を取り上げていた。  殺人となると、一話では収まらない。5話程度に収まるようにする予定になっている。  編集からは、5話分を一気に納品して欲しいと言われている。  私もそのつもりで他のエッセイや取材を断って、スケジュールを調整した。  昔の仲間たちにも話を聞きに行った。ムショに入った連中とも久しぶりに会って、社会復帰したと笑いあった。ムショ帰りだと仕事が限られているが、私のように表に出ない仕事や人が嫌がる仕事ならムショ帰りでも問題は無い。  中には、過去を隠して就職した者もいる。仲間の中では、犯罪を行っていたのは、昔の話になっている。実際に、罪を償った者。罪にはならなかった者。いろいろだが、過去ばかりを見てもしょうがないと思っている。 ---  殺人を取り上げた雑誌が発売された。  私は、読者が殺人を犯すのではないか・・・。居ても立っても居られなくなって、編集に連絡した。 『大丈夫ですよ。読者も馬鹿では無いですよ。模倣して、犯罪者になってしまう人はいませんよ』  編集の明るい声を聞いて安心した。  そうだよな。仲間が行った犯罪も、読者が真似をした証拠は何もない。編集部も、私を仲間と呼んでくれた。そして、編集部は最初の読者だ。  読者を疑うということは、仲間を疑うことになってしまう。 ---  4話まで発表された。  すでに、3パターンの殺人を取り上げている。模倣は現れていない。  編集の浅葱さんからも、心配しすぎだと笑われた。昔の仲間にも笑われた。今の仲間である編集部の面々も、そんなに心配していたのかと笑われてしまった。読者からの反応は上々だと教えられた。  私の書いた文章が、小説を書くときの資料になっていると言ってくれた作者さんもいて、編集部に”巻末”で紹介したいと打診があったと言われた。最初は戸惑ったが、浅葱さんが”箔がつく”と言ってくれたので、許可することにした。昔の仲間も、問題はないと言ってくれたのが、後押しになった。  明日、最終話が載った雑誌が発売される。  早いところだと、すでに店頭に並んでいると教えられた。  初めての数話にまたがる話で、私が、仲間が行った犯罪以外を書いた。  編集部から、お祝いに”簡単なパーティーをしませんか?”と誘われた。断るつもりだったが・・・。浅葱さんが、最終話が載った雑誌を最後に、会社を辞めることにしたようで、世話になった人の新しい門出を祝うために、パーティーに参加することにした。  久しぶりに都会に戻ってきた。 「浅葱さん。お疲れさまでした」 「ありがとうございます」  持ってきた花束を渡しながら、今までの礼を伝える。  今まで世話になった浅葱さんと、恐縮しながら浅葱さんと杯を重ねる。  少しだけ酔ってしまったが、帰るのには問題はない。  編集部だけの小さなパーティーだった。始まった時間が遅かったこともあり、12時を回って翌日になってから解散となった。  パーティー会場を出ると、ネオンの明かりが眩しい。酔ってはいないが、新しい仲間たちと楽しい時間を過ごせた。編集部からは、読者の反応や、読者が求めている内容をいろいろ教えてもらえた。 「田中さん」 「え?」  浅葱さんが、私の本名を呼んだ。普段は、ペンネームで話しかけるので、本名で呼ばれてびっくりした。 「田中さん。田中さんが住んでいらっしゃる場所は、ネオンよりも星明かりが綺麗なのでしょうね」 「えぇそうですね。見上げれば、星しか見えませんよ」 「ふふふ」 「どうしました?」  帰る方向なのか?  編集部の人たちは、誰も居ない。私と浅葱さんだけだ。 「実は、田中さんの連載には、部署内でも反対の声が多かったのですよ」 「え?」  初めて聞く話だ。前に、”なぜ”と聞いたときには、言葉を濁された。 「そうだったのですね。それでは、”なぜ”?」 「ふふふ。もう少しだけ歩きましょう」 「・・・。はい」  浅葱さんが私を先導して、ゆっくりとした歩調で進む。  途中は、昔の仲間の話を聞いてきます。私も、浅葱さんにはすでに話している内容なので、質問に答えるような形ですが、雑談のように話をする。 「え?」  浅葱さんがこっちを向いて笑った場所は、陸橋だ。下は、鉄道が走っている。  そう、ここは、最終話で”殺害が行われる”場所に酷似している。 「田中さん。”なぜ”と聞きましたよね」 「あぁ」 「私は、貴方が・・・。貴方の仲間たちが、思い出してくれたら・・・。そう思っていました」 「・・・」 「知っていますか?犯罪は、加害者は罪を償った気になって、忘れるのですが、被害者は、被害者の仲間は忘れられないのです」  浅葱さんは、私が渡した花束を地面に投げ捨てて、足で踏みつける。  逃げよう。周りを見ると、陸橋の両脇を人や車が塞いでいる。 「本当は、貴方のお仲間も呼びたかったのですが、それはこれから、ゆっくりと・・・。ね。私は、いえ、私たちは、貴方を許せないのですよ」 「え?俺は」 「そう、貴方は不起訴です。法律で裁けない。それなら、私が、私たちが裁くしかない。そう言えば、読者からの反響を知りたがっていましたよね?」 「・・・」 「周りにいるのが、読者さんですよ。貴方が書いた犯罪を自慢しているような、クソみたいな!文章をぉぉぉ!読んで集まってきてくれた!そう、読者ですよ。そして、私の仲間!貴方たちの仲間が犯したことで、家族を!財産を!夢を!希望を!なくした人たちですよ。貴方が”会いたい”と言った読者ですよぉぉぉぉ。喜んでください!」 「・・・。俺は・・・」 「少しだけ興奮してしまいました。もうしわけない。気にしないでください。私たちは、加害者になることは気にしません。貴方は、殺しません。安心してください。読者たちが味わった苦痛を100倍に・・・。いえ、貴方の感性では、1/1000も感じないでしょう。だから、1万倍にして実行します。今から楽しみですね!」  下に飛び降りて逃げられない。足の骨だけで済めばいいほどの高さだ。  浅葱を殴って逃げても・・・。ダメだ。100人以上を振り切れない。  おれは・・・。  どこで間違えた?

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